30年近く中学校教員として一線にいて、直接担任した生徒は500名以上、教科を通じて1万人以上の生徒を指導してきてわかることがあります。
よく言われる「非行のサインを見逃すな」という言葉は、親として大切なことを見失う危険性をはらんでいます。
目 次
子どもが非行に走ったときに間違った対応をした家庭の末路
これは、私が勤務した学校の生徒ではないのですが、14歳の娘さんのことで相談を受けた事例です。
その女の子は自分で気持ちをセーブできず、顔色ひとつ変えないでウソをついたり、母や父の財布からお金を盗むということでした。
それだけでなく、友達の財布からも盗んだり、携帯電話を盗んだり…
こんな時に「あなたならどうしますか?」
このお母さんがとった方法は、罰を与えること
携帯の没収と月2000円のお小遣いの5か月停止です。
その結果はどうなったか?
改善すれば何も相談なんかしません。
状況はさらに酷いものになったようです。
非行のサインはあったの?
私は教員をいつも非行のサインという言葉に違和感を感じていました。
なぜなら、この言葉には悪いのは非行に走る子どもで、そのサインをいち早く察知することが大切だという意味が込められているように感じたからです。
これが最初にお話しした「親として大切なことを見失う危険性」をはらんでいるということです。
✔ 親はいち早く、非行のサインが小さいうちに見つけて対処する必要がある
✔ 親として子どもを外れた道から救い、教育していく方法は?
これらはみな、
〇親はすべて正しい
×子どもは指導して育てる必要がある
という考え方に立っています。
でも、そもそも出発点の考え方が間違っていると私は思います。
先ほどの相談してきたお母さんは、最初「ごく普通の家庭で何不自由なく育ててきたはずなのに」と嘆いていたのですが、結果としてこの家庭では劇的に変わったんです(^^)/
多くの場合には結果を招く原因がある
この女の子は、善悪の判断ができないでお金を盗んでいるわけではないようでした。
また、母親が思うほど、自分の気持ちを抑えられいお子さんでも無かったようです。
むしろ、顔色ひとつ変えずに平気でウソをつかざるをえないところまで精神的に追いつめられていたと思われます。
お金を盗んだのも、何かを買いたくてお金が必要だったのではなく、親の財布からお金を盗まざるを得ないほど心が困っていたのではないでしょうか。
家庭環境から読み取れる女の子の…
この女の子は、幼い頃はとても明るい、いいお子さんだったようです。
ところが、女の子が6歳の時に長男が生まれました。
6歳の女の子と言えば、まだまだお母さんに甘えたい時です。
それが、きっとお母さんは赤ちゃんにかかりっきりだったでしょう。
さらに女の子が14歳になった時に、二男の男の子はまだ2歳。2歳と言えば可愛いくて手もかかる時期です。
もしかして女の子は6歳の頃からずーっと寂しい気持ちで過ごしてきたのかもしれません。
そして14歳の彼女がお母さんを自分に振り向かせる唯一の方法が悪い子になることだったのではないでしょうか。
でも、女の子が本当に求めたのはお母さんを振り向かせることではなかったと思います。
だから、お母さんがそれに気付くまでは、さらに彼女の行動はエスカレートするに違いありません。
そこで、お母さんに、あるアドバイスをしました。
そして、その結果…
下の子を放り出して〇〇してみましょう…
母親に伝えたお話は次の通りです。
予想できる女の子の気持ちから
娘さんが6歳の時に下に男の子が生まれてお母さんはその赤ちゃんにかかりきりになったのではないですか?
そして娘さんは「お姉ちゃん」として育てられた。
娘さんは賢くてやさしい子だったようですから、今までお母さんの期待に応えて来たことでしょう。
ところが気持ちが不安定になりやすい思春期になって、今度は二男が生まれた。
そしてお母さんはまた赤ちゃんにかかりきりになった。
今までお母さんの期待に応えて頑張ってきたけど、無性に寂しくなって、お母さんに自分の方を振り向いてほしくなった。
でも、どんなに頑張ってお母さんの期待に応えてもお母さんは振り向いてくれない。
ところが、何かのきっかけで、お母さんが自分を振り向いてくれる場面があることがわかった。
それは母を困らせること。
その延長線上に今の様子があるとは考えられないでしょうか?
女の子の気持ちを満たすために…
さらに次のように話を続けました。
今度、下の子を誰かに預けるなりして女の子と二人っきりの時間をゆっくり取ってみてください。
そして、娘さんにしっかり向き合って、よく話を聞いてあげてください。
その時に決して彼女を責めないでくださいね。
むしろ、親として足りなかったこと(私も含めてみんなあることです)を率直に謝ることです。
それを聞いたお嬢さんもきっと自分を振り返ることができるようになると思います。
さらに、2歳の二男にしてあげているように、思いっきりお嬢さんを抱きしめ、可愛がってください。
そしてお小遣いも復活させてあげましょう。
賢いお嬢さんはきっと変わりますよ。
結果的にこのご家庭の状況は劇的に良くなりました。
アドバイスをした私も驚くほどの変わりようです。
親として成長するために子どもがもたらしてくれるもの
自分が話をきちんと聞いてあげていなかったことに気がついた。
それからは子どもの話も夫の話も、とにかく受けとめてそのまま聞くようにした。
小さいときに言うことを聞かなかった兄を叩いてきたことを振り返った。
さらに、兄の言動に怒ってばかりいる自分に気がついた。
自分の思い通りにいかない兄を怒る私と、自分の思い通りにいかない弟を叩く兄は一緒だ。
それからは、自分の感情を怒ることで解消することをやめた。
そう娘に言われ、一人ぼっちになった。
そして、子どもとのやりとりを無くした自分には何も残らないことに気がついた。
夫との会話を増やし、子育てが一段落して生まれた時間を使って、資格取得の勉強を始めた。
同じ資格を目指す人たちとのつながりも出来はじめた。
子どもが言うことを聞かないので、お小遣いを無くしたり、遊びに連れて行くことを無くした。
すると家では壁を壊したり、親にも暴力を振るうようになった。
学校では友達をいじめ、今度は万引きをして警察につかまった。
どうしたらいいのかわからず途方に暮れている…と。
子どもに育てられてきた私たち親
考えてみれば、私たちは最初から親としての資質や能力をもっていたわけではないですよね。
最初は何で赤ちゃんが泣いているかわからなくても、やがて「お腹が空いたかな」とか「眠いんだな」とわかるようになってきました。
オムツが汚れてギャンギャン泣いている子のオムツを替えてあげるとまるで天使のような笑顔を見せる赤ちゃん。
そうやって子どもの世話をするたびに赤ちゃんの笑顔をもらいながら親として育てられてきたのかもしれません。
子どもが小学生になって手がかからなくなると、いつの間にかそんなことも忘れてしまいます。
まして、子どもが中学生になれば放っておいても育つのではないかと錯覚してもおかしくないです。
でも、小学生や中学生になっても子ども達は出しているんですよ、サインを!
赤ちゃんが「お腹が空いたよう!」と泣く時ほどわかりにくいですけど(^^;)
「パパ、今度はもっとお話しして!」というサインを!
そして、そのサインに気付かない親には、もっと刺激的なサインをくれるんですね(^^)/
それでも気付かない親にはもっとインパクトのあるサインを出してくれるかもしれません。
それを世間では非行のサインと言うようですが(^^;)
子どもが非行に走った時の親の対応 あなたが選ぶ道はどっち?のまとめ
あなたはどっちの道を選びますか?
②親としてさらに成長するためのヒントをもらったと思い豊かな家庭を作る努力をする
この母親にしたアドバイスは、教師としての経験よりは、私の子育てでの反省に基づいています。
2人の男の子を育てましたが、
兄が4歳の時に弟が生まれ、「お兄ちゃん!」「あなたは兄なんだから」と育てて、兄から“親に甘える”ことを奪ってしまいました。
辛い時があったと思います。
寂しい時があったと思います。
思いっきり甘えたい時があったと思います。
彼が高校生の時に私たちの寝室に来てベッドに上がってきた時には驚きましたが、しばらくそのまま話をしていました(^^)/
いいですね、渦中にいる方は、今すぐやり直しができるんですから(^^)/