便利で豊かな社会ですが、変化のスピードが速くなかなか先が見通せない中で、反抗期や思春期の子どもをもつ親御さんはもちろん、子育てに関わる多くの人が「困難にぶつかっても自分の力で将来を切り拓いていくたくましい子どもを育てたい」と思っているのではないでしょうか。
私が中学校に勤務していた時、生徒たちに「簡単に心の折れない強い人になってほしい」と思って作った2つのエピソードをお読みください。
※1つだけ読んでも意味は伝わりませんので(^^;)
目 次
たくましい子どもを育てることを願って(エピソード1)
ある少年のお話です。
ある少年がいました。
小学校の時はよく勉強ができ、親の言うことも良く聞く大変素直な子でした。スポーツも好きで、友達とも仲良く遊んでいました。
中学校に入学した少年は勉強に熱心に取り組みました。
1学期の中間テストが終わりましたが、結果は本人が思ったより良いものでした。
そしてその後も彼は前向きに取り組んでいたのですが、期末テストの結果は中間テストに比べあまり良くはありませんでした。
少年は『せっかく頑張ったのになぁ 悔しいなぁ』と思いながら家に帰って両親に結果を見せたら父親はこう言いました。
『中間テストの時よりも頑張っていたのに悔しかっただろう、まぁ頑張っても結果に出ない時もあるもんだよ。それにしても中学校もなかなか大変なんだなぁ』
それを聞いた少年にはいつのまにか悔しさが消え、よし、また頑張ろうと思うようになりました。
1学期も終わりの頃、クラスでは遅刻が増えてきていました。
そんなある日、朝 学校に出かけようとした時、おばあさんの様子が少しおかしいことに気付いた彼は、近所の家に出かけていた母親を呼びに行きました。
その後救急車を呼んだりするうちにすっかり遅くなってしまい、急いで学校に行ったものの当然遅刻をしてしまいました。
前の日に、先生から遅刻が増えているから注意するように言われたばかりなのに遅刻をしてしまった彼は恐る恐る教室に入りました。
すると先生は『いつも遅刻をしないのに今朝はどうしたんだい?』と聞いてきました。
彼が朝のことを話すと
『あなたのおかげで早く病院に行けて良かったね、お大事に』と先生に言われました。
その日、家に帰ると家族がいません。やがてお父さんが帰ってきたので一緒に病院に行きました。
幸い処置が早くて大事に至らなかったおばあさんは彼に『ありがとう』と言いました。
2学期に入って体育祭があり、そこで思わぬけがをしてしまい、しばらく部活動が出来なくなってしまいました。
サッカー部に入っていた彼は、それでも毎日部活動に行ってはボール拾いをしたり、友達のプレーを見て『ぼくならこうプレーする』『治ったらこうしよう』と考えていました。
やがて始まった中間テスト、頑張ったものの、うっかりミスが多く、結果は1学期の期末よりもさらに悪くなってしまいました。
両親は1学期と同じように言ってくれたのですが、自分では納得がいかず、今まで以上に勉強を頑張るようになりました。
やがてけがも治り、部活動の練習に戻った彼は前にも増して熱心に練習に取り組みました。
ある日、練習が遅くなり暗くなった帰り、普段ちょっと怖いと思っていた先輩に呼び止められました。
『このズボン安くするから買わないか?』と言われた彼は、家に帰っても親にそのことを言うと『明日担任の先生に相談したほうがいいと思うけど・・・・』と言われました。
次の日、担任に相談したら『生徒同士の物の売買は良くないな、自分で上手に断れれば一番いいけど・・・・』と断り方のアドバイスを教えてもらいました。
翌日、彼は先輩に会いに行き、『親に相談したらダメと言われた』と伝えました。
先輩は『親になんか相談すんじゃねぇ。バカじゃねぇか』と捨てぜりふを言いましたが、別に怒りもせずに行ってしまいました。
それ以来、先輩からも声をかけられることはなくなりました。
少年は今日も多くの友達と明るく学校生活を送っています。
特別なことはない、どこにでもありそうなお話だったかと思います。
では、もう1つのエピソードをお読みください。
子育てで親の役割や大人の責任って(エピソード2)
もう1人の少年のお話です。
ある少年がいました。
小学校の時はよく勉強ができ、親の言うことも良く聞く大変素直な子でした。スポーツも好きで、友達とも仲良く遊んでいました。
中学校に入学した少年は勉強に熱心に取り組みました。
1学期の中間テストが終わりましたが、結果は本人が思ったより良いものでした。
そしてその後も彼は前向きに取り組んでいたのですが、期末テストの結果は中間テストに比べあまり良くはありませんでした。
少年は『せっかく頑張ったのになぁ 悔しいなぁ』と思いながら家に帰って両親に結果を見せたら父親はこう言いました。
『前のテストがちょっといいからと油断したんだろ、今回良かったらおまえの欲しがっていたゲームソフト買ってやろうと思っていたんだけどダメだな。
いつも、毎日の勉強が大事だってあれほど言っているだろ! 次は絶対頑張れよ!』
それを聞いた少年は『ちくしょう! おれは今回だって頑張ったのに! 結果ばっかり見やがって』と思いました。
1学期も終わりの頃、クラスでは遅刻が増えてきていました。
そんなある日、朝 学校に出かけようとした時、おばあさんの様子が少しおかしいことに気付いた彼は、近所の家に出かけていた母親を呼びに行きました。
その後救急車を呼んだりするうちにすっかり遅くなってしまい、急いで学校に行ったものの当然遅刻をしてしまいました。
前の日に、先生から遅刻が増えているから注意するように言われたばかりなのに遅刻をしてしまった彼は恐る恐る教室に入りました。
すると先生から『バカ野郎!昨日あれほど遅刻をするなと言っただろ!・・・・』とみんなの前でさんざん怒られてしまいました。
その時彼は思いました。『クソ! あの時呼びになんか行かなきゃ良かった』
その日家に帰ると誰もいません。『誰もいねぇじゃねえか、どうなってんだよ』と思っていたところに父親が帰ってきて『一緒に病院に行こう』と言いました。
彼は思わず『くそばばぁのところになんか行けるか!』言ってしまいました。
父親は『なんだその口の訊き方は!』と怒って出かけて行きました。
2学期に入って体育祭があり、そこで思わぬけがをしてしまい、しばらく部活動が出来なくなってしまいました。
おもしろくないことが続くのですっかり投げやりになっていた彼は放課後になると何をすることもなく毎日フラフラしていました。
やがて始まった中間テスト、すっかりやる気をなくした彼はやっぱり結果がよくありません。
どうせ怒られるからと彼は結果を両親に見せませんでした。
親は結果が来たことどころか、テストがあったことさえわかっていないのかもしれません。
結局そのままになってしまいました。
彼は『なーんだ結局俺のことなんか何にも心配していないんだ』と思い、すっかり勉強のやる気を無くしてしまいました。
やがてけがも治りましたが、しばらく行かないうちに部活動に行きにくくなってしまいました。
それでもある日練習に行きました。すると顧問の先生から『休んでばかりいて何しているんだ!そんなことじゃレギュラーにはさせないからな』と怒られました。
ある日、練習が遅くなり暗くなった帰り、普段ちょっと怖いと思っていた先輩に呼び止められました。
『このズボン安くするから買わないか?』と言われた彼は、買うことにしました。
そして次の日、さっそくそのダボダボのズボンをはいて登校しました。
すると同級生の見る目が昨日と違うような気がして、何か優越感を味わえました。
先生は何日経ってもそのズボンに気づきません。
ところが、一週間も過ぎた頃、『なんだそのズボンは!変形服なんかダメだろ!』と怒り出しました。
その時少年は思いました。
『何でぇ、今まで気付かなかったくせに偉そうに!』
そして思わず彼は『うっせぇなー!』と大きな声で言いました。
その時、先生の顔色が変わったように感じました。さらに、クラスのみんなから集まる視線がより彼に優越感を与えました。
夜担任の先生から親に電話がありました。
詳細を聞いた父は怒り出して少年を何度も殴りました。
何度目かの時、彼は思わず父の手を払いのけました。
すると父は後ろにしりもちをつき、それを見た母は隣でオロオロしていました。
『なーんだオヤジなんかたいしたことないじゃん』と彼は心の中でつぶやきました。
ズボンを買ったのをきっかけにいろいろな先輩から声をかけられるようになりました。
時にはパシリをさせられたり、お金を巻き上げられたりしましたが、勉強も部活もやる気を無くした彼はそれでも先輩と一緒にいるのがおもしろくて先輩に従っていました。
ある日、また先生から怒られムシャクシャしていた彼は、先輩から『おもしれぇことがあるから夜うちに来い』と言われ、怒る両親を無視して先輩の家に出かけました。
そこには先輩ばかり5~6人がいました。
チューハイの空き缶が転がり、みんなたばこを吸っていました。
最初は断っていた彼も『それでも男か』とバカにされ、結局タバコと酒に手を伸ばしました。
先輩から『お前が1年生では一番みどころがある』、そう言われ内心嫌な気持ちはなかった彼はそれから毎日のように先輩の家に顔を出すことになりました。
時には20才位の先輩も来ることがあり、バイクの後ろに乗せてもらいました。
さらに先輩に勧められ、ついに夜中にある家の前に止めてあったバイクを盗んでしまいました。
今日も少年は先輩と行動を共にしています。
同級生はもうほとんど彼に話しかけてきません。
ある日、彼はふと思いました。『俺はこれからどうなるんだろう』
2つのエピソードはいかがでしたか?
同じ少年がちょっとしたきっかけで、大きく違う道に進んでしまう。
よくありがちなお話です。
精神的に強い子に育てるには
生徒にはこの2つの話を聞いてもらった後に次のような話をしました。
このお話はフィクションです。
でも、よくある話です。
自分のまわりで起こることがいつも自分のために理想的だとは限りません。
時にはダメな親、ダメな教師の場合もあるでしょう。
でも、その場合でも結果をすべて背負うのは自分です。
結果が思い通りにならなくても、周囲の人間が自分の思う通りに動いてくれなくても、くさらず、投げ出さない強い意志を持つようにしましょう。
そうやって頑張ったことはいずれ絶対に自分に返ってくるものだと思います。
自分を認め、自分を励ます一番の人間は『自分』です。
保護者の方には機会のあるときに次のようなお話をしました。
このお話はフィクションです。
でも、似たようなお話は実はたくさん起こっています。
私も2人の男の子の親ですが、子育ては思うように行かないときがあります。
そして、私たち教師や学校も常に子どもたちに理想的な教育が出来ているとは限りません。
教師として至らぬこともありますし、親としてダメなこともあるのですが、それを率直に認め、必要によっては子どもに謝ることも必要かもしれません。
そして、少しでも良い環境になることを目指していくことが大切だと思っています。
一番良くないのはしたことを後悔し、自責の気持ちをいつも心に持つことではないでしょうか。
その状態で子どもは決して良くならないと考えています。
「う~ん、今回はちょっと失敗しちゃったな」
「あ~ ダメだったか」
そんなふうに考え、「よ~し、今度はこうしてみよう」と常に前向きにいきたいものです。
たくましい子どもを育てる親の役割と精神的に強い子にするコツのまとめ
2つのエピソードはいかがでしたか?
お話はフィクションですが、こんな事例を今まで何度も経験しました。
大人次第で子どもは大きく変わることがあります。
そんな中で、ちょっとした困難にぶつかっても心の折れない、強くたくましい子を育てるコツ、
それは私たち大人が、温かい気持ちで子どもを見守り、共感し励ましていくことが一番だと思っています。
それではまた(^^)/